第3回:「ニーズと先輩と社会変革こそが、社会事業家を育てる」IIHOE 川北秀人
文: IIHOE [人と組織と地球のための国際研究所] 代表者 川北 秀人
あなたが社会事業家を志すなら、また、そうあり続けたいと願うなら、贈りたい言葉は、「ニーズを知りぬいて、その代弁者たれ」、「先輩と歴史から徹底的に学べ」、「事業の計画ではなく、社会を変える計画をつくれ」の3つだけだ。
残念ながら多くの「自称:社会起業家(をめざす若者)」に共通するのは、感じただけで、調べもせず、気付きもなく、確かめ・試しもせずに、自分の感情や欲求を「思い」と称して語っていることだ。しかしそれは、思い込みに過ぎない。
私たち社会事業家は、「自分はこういうことをしたい」という感情や希望・欲求を語るのではなく、「これまで、どんなことがどれだけ起きてきたのか」という現象と、「なぜ、その現象が起きたのか」という原因・背景、そして「それを放置すれば、今後どんな事態が起きてしまうか」という見通しを踏まえたニーズを正確に知り、それを当事者に代わって、ときに代表して社会に伝え、変化へのプロセスへの参画を呼び掛ける存在に他ならない。
事業や運動を展開するとき、あなたは決して、純粋な意味での「世界初」ではない。あなたと同じような課題や理想に挑んだ先輩や、同じ原因や背景に取り組んだ先輩たちが、必ずいるはずだ。社会的事業は、起業することに意味があるのではない。それを事業や運動として、実現することにしか、意味はない。だからこそ、やり抜くために、成果を導くために、先輩たちの取り組みを学び、ときには修行させてもらうことが不可欠だ。
そして準備ができたら、計画をつくることになる。あなたひとりではなく、誰かを巻き込みたいから、計画をつくるのだ。その計画は、事業をするためではなく、社会を変えるためにつくる。
昨今、ニーズも先輩も歴史も知らずに、スケールアウトだ、ティッピング・ポイントだなどという言葉を口にする輩が増えている(そんなことを教えている輩が一番悪いのだが)が、それはあくまで、その団体の事業を、ひいては自分を、中心に置いた考えに他ならない。
そんな天動説の団体や人間に、てこの原理で社会を動かす力は、生まれない。ニーズを正確に知り、どこにどんなしくみを持ち込むことで、社会全体を動かすのか。そのために、誰とどう連携するのか。その視点を持てれば、既に先行している団体も、自分たちの活動の対象となる人々(利用者・受益者)も、敵対関係にある存在さえも、貴重な資源に見えてくる。
あなたは、ニーズを代弁できるか。先輩と歴史を学んだか。社会を変える計画を用意できたか。
ならば、あとは自信を持って、持てる力のすべてを振り絞ればいい。私も全力で、応援する。
【プロフィール】
1964年大阪生まれ。87年に京都大学卒業後、(株)リクルートに入社。
国際採用・広報・営業支援などを担当し、91年に退職。
その後、国際青年交流NGO「オペレーション・ローリー・ジャパン」の代表や
国会議員の政策担当秘書などを務め、94年にIIHOE設立。
大小さまざまなNPOのマネジメント支援を毎年100件以上、
社会責任志向の企業のCSRマネジメントを毎年10社以上支援するとともに、
NPOと行政との協働の基盤づくりも支援している。
隔月刊誌「NPOマネジメント」編集発行人。特集などの執筆も担当。
2002年~社会起業塾イニシアティブ(前・NEC社会起業塾)塾長。