コラム

第2回:「この国から、魔の三文字「どうせ」を追放するために」
株式会社丸善 小城武彦

文: 株式会社丸善 代表取締役社長 小城 武彦

私は企業再建を仕事にしています。業績が悪く、元気がない会社には、魔の三文字が蔓延しています。それは、「どうせ」という三文字です。

「どうせ、こんなことを上司に言ったって…」、「どうせ、自分の部署は…」、「どうせ、うちの会社は…」、といった会話が、社員の間に蔓延しています。
この魔の三文字は、人間の可能性に蓋をし、私たち一人ひとりが誰しも持っている成長の扉を閉ざしてしまう大変恐ろしい言葉です。

最近、この「どうせ」が、調子の悪い会社だけではなく、日本の社会全体にも蔓延しているのではないか、ということに気がつきました。「どうせ、努力をしたって・・・」、「どうせ自分の人生なんて・・・」。こういった言葉を、電車の中や夜の居酒屋などで耳にすることが多いことに気づきました。

国も狭く、人材が重要な資源であるこの国で、「どうせ」が蔓延しているこの状態が続けば、未来はどうなってしまうのでしょうか。

私は、この「どうせ」に対して、果敢に勝負を挑んでいるのが、社会起業家と呼ばれる人たちだと、認識しています。

だからこそ、「どうせ」に真っ向勝負している人間を称え、サポートをする必要性があるのです。
社会起業家たちの事業が、社会的に大きなインパクトを与えれば与えるほど、多くの人たちが彼らから刺激を受け、「どうせ」と決別できる勇気をもらえるのではないでしょうか。

もちろん、今の日本には、そうした社会起業家の数は少なく、また彼らは孤独であり、社会全体で支える仕組みが必要です。
そのための仕組みの一つとして、今回の「ソーシャルベンチャー・スタートアップマーケット」があると考えています。

私が、この「ソーシャルベンチャー・スタートアップマーケット」の中で、ETIC.に期待していることは、社会起業家の孤独やつらさに寄り添いながら、ETIC.がサポートするだけでなく、彼らの力になれる人がどこにいるのか、ともに探していくということです。
ETIC.のこれまでの活動の歴史と、築いてきたネットワーク、志の求心力を持ってすれば、必ず実現できると信じています。

また、このスタートアップマーケットから生まれる新しい社会起業家や、ソーシャルベンチャーの事業を、多くの人に知っていただきたいと思っています。

「どうせ」と思わず言ってしまう人たちが、彼らのことを知り、自分にもできるかもしれない、と思えるようになっていくことは、「どうせ」、で片づけてしまっている大事なものへの扉を開けることに繋がっていくのではないでしょうか。

ETIC.のコミュニティに集い、社会起業家たちと関わると、私自身も学び、またパワーをもらえる気がしています。
どんなに忙しい中にあっても、ETIC.のコミュニティに来ると、なぜか元気になれる、という不思議さがあるのです。
そうしたことに喜びを感じながら、社会的意義のある仕事への応援を、これからも続けていきたいと思っています。

【プロフィール】
1961年東京都生まれ。東京大学法学部卒業後、通商産業省(現経済産業省)に入省。
91年プリンストン大学ウッドローウィルソン大学院卒(国際関係論専攻)。
97年に通産省を辞め、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に入社。
以後、産業再生機構のマネージングディレクター、カネボウ(現クラシエ)代表執行役社長を経て、
2007年1月に丸善の顧問に就任。同年4月からは代表取締役社長を務める。
鳩山政権のビジョンの中心でもある「新しい公共」を実現するため、
有識者が集まり、その在り方を議論する「円卓会議」のメンバーにも選出されている。