2年間の成果とその背景を事業担当にきく(1)「地域イノベータープログラム・ソーシャルビジネスインターンシップ・ソーシャルビジネス実習」伊藤淳司
伊藤淳司(ETIC. インターン事業担当)
3月に終了する、ソーシャルビジネスエコシステム創出プロジェクト。
「地域イノベータープログラム」「ソーシャルビジネスインターンシップ」「ソーシャルビジネス実習」の事業担当・ETIC. 伊藤淳司に、2年の総括と、今後の展望を聞きました。
— 2年間が終わろうとしています。始まる前と、その後2年間を振り返ってみて、いかがですか?
伊藤 2年前の記憶がないですね(笑)始まる前、どうだったかな・・。
2年前の年末にこの内閣府事業の話があり、年が明けてすぐ動き始めたんです。
とにかく、やらねばならぬ、というモードでしたね。予算がこれまでETIC.が扱ったことのある規模を超えて大きかったですから、その分、インターンの件数も、2年間で1400件という単位になる。正直、2年間の事業の工数はどれくらいかかるのか、大規模な目標を達成できるのか、当初心配になることはありました。
— 10年以上、インターンシップ事業に取り組んできても、2年間で1400件という数はこれまでなかったんですね。
伊藤 「起業家的インターンシップ」と「地域に新しい仕事を創る」切り札となるインターンシップを、ETIC.は東京で1997年から、全国では、地域のチャレンジプロデューサー(以下CP)とともに2004年から実施してきました。これまでインターンシップの現場の、一人一人に対して、ETIC.やCPが、時間をかけてコーディネートをし、その結果、インターンシップによって、新たな事業、新しい仕事が生まれてきました。
2年間の内閣府事業でも、規模が大きくなりながら、同時に、これまで追求してきた成果を出していくというのは、とても大変だと思いました。
ただ同時に、今回の事業を新たなチャンスにしようと、考えました。
これまで、半年以上の期間を、どっぷり企業の現場に入る「長期実践型インターンシップ」というプログラムにこだわってきましたが、この方法だけではアプローチ仕切れていないこともありましたから、より成果を広げるために、新たに取り組むいい機会だと思いました。
■インターンシップの「短期バージョン」のプログラムを開発、実施し、
全国の40大学との連携が始まり、大学生が地域で成長する機会が飛躍的に増加。
— ETIC.やチャレンジプロデューサーにとっての、新たな機会だったんですね。
実際にはどんなプログラムと成果がありましたか?
伊藤 2002年から、全国の地域に新たな仕事づくりのインターンシップが広がっていくにつれ、
特に東京以外の地域では、「大学」がとても重要な連携相手だとわかってきました。
しかし実際には、あまり連携はすすんでいませんでした。学生が長期間インターンの現場に行くことを、大学として推奨しづらいという状況もあったからです。
そこで、「インターンシップ実習」という短期型の新しいプログラムをつくりました。
実際に始めると、連携する大学が一気に増えました。学生の成長にとってインターンシップがいい機会になる、と気付いた大学が、導入しやすいプログラムだったんですね。
— 40の全国の大学との連携が進んだのは、面白いですね。
伊藤 各地のCP(地域事務局)が、大学と一緒に学生の成長を支え、学生と企業の橋渡しをして、短期であってもなかなか面白い成果がたくさん生まれています。(詳しくはこちら)
— 一方大学にとっても、チャレンジプロデューサーとのコラボレーションは、嬉しいですよね。
伊藤 チャレンジプロデューサーが、学生の成長を高めるための指導を一緒に行ったり、インターンの受け入れ企業を見つけたり、コーディネーター役のCPの重要性を、大学の方達にかなりわかっていただいていますね。
— 2年の事業が終わりますが、今後どんな形になっていく予定ですか?
伊藤 インターンシップの重要性を多くの大学が認識されています。地域の中でインターンシップが果たす役割の重要性ですね。この3月に内閣府事業としては終わるわけですが、それでプログラムが終わってしまう地域はほとんどないです。より定着していくように、大学の必修カリキュラムとして制度化する大学もあれば、県や市と連携していく動きもあります。「5年後の地域でのインターンシップのあり方」をテーマに全国の大学、CP同士のアイディア共有も始まっています。
■地域の新たな仕掛人のもとに、16人の社会人が修行。自治体との連携にも期待。
「これまでの仕事の経験を活かした、地域での新しい生き方に関心のある社会人が増えています」(伊藤淳司)
伊藤 もう一つ、この2年間に生まれた新しいプログラムが、社会人を地域の新たな仕掛人のもとに送りこむ「地域イノベータープログラム」です。2年間で、8地域に、16人の社会人が入っていきました。
— 会社を辞めて地域に入っていく社会人がたくさんいたのですね。
伊藤 現状の仕事を、今のままやっていても、その先に何があるのかが見えにくい、という感覚がある人が多いみたいです。震災があったことも関わっていると思います。
地域で仕事することを、むしろポジティブにとらえている人が多いです。自分のこれまでの経験、キャリアを活かした、新しい生き方、地域に貢献して生きたい、という理由で、ETIC.の情報を知ったようです。
— 地域で仕事することは、自分の仕事が、その先の「誰に」、地域の「何につながっているのか」、見えやすい。何のための仕事なのか、がわかるのが魅力なんですね。
伊藤 地域ならでは面白いポジション、キャリアが作っていけると思ったり、
具体的なプロジェクトが面白そうと感じるんだと思いますね。自分の地元で仕事をしたい、というのもありますね。地域に関心のある人が、ものすごく増えているのを、この2年間特に感じています。
その意味で、地域に対してのハードルが下がっていると思います。自ら、そういった地域でのポジションやプロジェクトを探していくことが、元々地域に関心がなかった人たちにとっても敷居が低くなってきているのかな。
— では初めて地域で働く人たちも、この2年ではいたのですか?
伊藤 このプログラムで、初めて地域に行く人たちも結構いたんですよ。また、元々関心があって自分で地域とつながりを作っていた人たちももちろんたくさんいました。
— 期間を終えて、その方達はどうされているんですか?
伊藤 元々関心が高かった人たちだけでなく、この機会が初めてだった人たちの中にも、そのままその土地に根付いて仕事している人が結構いますね。新規事業の立ち上げを行うような人たちも出ています。
— ビジネス経験をもった社会人が地域で仕事を作っていくのは、素晴らしいですね。
伊藤 そうですね。大学生のインターンとはまた違う役割を、地域や地域の会社で果たしていると感じます。即戦力になる右腕的な人材を、地域のベンチャーや会社は必要としていますから。
— このプログラムで新たに見えてきた展開はありますか?
伊藤 新たな地域の仕掛け人のような人々の元に社会人を送り込むとことで、いろんなつながりが以前以上に出来てきました。特に、各地域の自治体からの関心も高いです。
新たな仕事を作る、というのは、1年2年ですぐに成果が見えるわけではありませんが、仕事を作り出す仕組み、それを支える生態系が出来てきています。今後も継続的に、各地でソーシャルビジネスを含めて、新たな地域の担い手が育っていくように、将来的には自分で起業したり、新しい事業に参画していく人材が、多く育まれるように、生まれてきた土壌をさらに耕していきたいですね。この二年間で、このような展開が見えたのは、嬉しいですし、有り難い2年間だったと思います。
(聞き手:井上有紀(慶応義塾大学SFC研究所ビジティング・シニア・フェロー))