インサイド・レポート

2年間の成果とその背景を事業担当にきく(3)「ソーシャルベンチャー・スタートアップマーケット」加勢雅善

加勢雅善(ETIC. SVM事業担当)

3月に終了する、ソーシャルビジネスエコシステム創出プロジェクト。

ソーシャルベンチャー・スタートアップマーケット(SVM)」の事業担当・ETIC. 加勢雅善に、2年の総括と、今後の展望を聞きました。

— 2年間を振り返ってみて、いかがですか?
加勢
2年間で、95人の事業スタートアップを支援する、という良い意味で数に挑戦させていただいた2年間でした。
ETIC.で以前から行ってきたインキュベーション事業での知見を元に、この2年間はより多くの起業を支援できる仕組みづくりへの投資ができたと感じています。

— 2002年からETIC.で行ってきた社会起業のプランコンテスト「STYLE」や、社会起業塾、イノベーショングラントなどを経て、今回のスタートアップマーケット事業があったわけですね。この2年で新しかったことはなんでしょうか?

加勢 10年たってようやく「生態系」と呼べる流れが生まれていると思います。この2年は特に、これまでETIC.がアプローチできていなかったような層の起業家と出会うことができたということが、一つの成果だと思います。

–この2年でより見えてきたことはなんだったでしょうか?

加勢 2年間で95人という人数の起業家の成長を見ることで、成長のパターン、プロセスモデルというものが見えてきました。どういうプロセスで、ソーシャルビジネスが事業として成長していくのか、またどんな人の起業家として、事業としての成長の速度が早いのか、ということがわかってきました。今後もスタートアップの支援を続けていく際に、より効果的な支援ができるのではないかと思っています。

「この2年で見えてきた起業家の成長プロセスを活かしたスタートアップ支援と、“マーケット”としての役割を今後も進めていきたい」(加勢雅善)

–95名の中で見えてきたパターンをいくつか教えてください。
加勢
全体としてみると、支援期間中を、事業モデルを確立するまでの試行錯誤、紆余曲折という大事な時間を過していた人が多かったと思います。その意味で、ちょうど今からサービスインした人、というのも多いですが、95人の、この事業の使い方にもいくつかのパターンがありました。
既に、やることは明確化された段階でプログラムに参加した人たちのケースでは、うまくマーケットにある人や知見のリソースを活用して、事業を一気にサービスインできていましたね。
このプログラムの存在を期に、やってみたかったことを始めたケースも多々あります。その中には、今までの仕事をしながら、パートタイムで起業しているケースと、仕事を辞めて、起業一本でフルタイムで動いている人。この2つの中では、当然といえば当然ですが、覚悟を決めてフルタイムで動いた人たちの成長の速度は早かったですね。
さらに、元々フリーランスで事業を作って動いていた人たちにとっても、マーケットで、マーケットメンバー同士のつながりや、メンターとの出会いをうまく活用して、面白い展開も見えてきたと思います。

–昨年の震災の影響はありましたか?
加勢
2年間で、1期から3期までメンバーがいたわけですが、特に2期(2011年3月〜2012年2月)の人たちは、震災の影響で、なかなか思うような動きがとれない、という状況が結構ありました。一方で、事業の中で東北関連のプログラムを始めるなど、震災があったから生まれたものも多数ありました。(スタートアップメンバー95人の詳細はこちら

–95人の支援という、これまでにない数の起業家を同時に支援するのは、運営上大変ではなかったですか?
加勢
正直最初のうちは、体制を整えることで精一杯でした。これまでは、一人の起業家に少なくとも1人以上のメンターがつくような、インキュベーションの方法をとってきましたが、95人の起業家に対してこれまでと同じように、ETIC.内部、外部から個別のコーディネーターをつけることが厳しい状況の中で、外部から100名以上の起業家や専門家の方々がメンターやサポーターとしてご協力いただいて、組織の中では、「マーケットコーディネーター」という新たな役割のスタッフ8名で担当し、彼らが起業家の状況は把握して、必要なところに、リソースのマッチングしていくような、効率的な仕組みが生まれたことは、ひとつの成果だと思います。今後も活用できる、同時に多くの人数の起業家を支える仕組みが確立できたと思います。

— 2年間の事業は3月で終わりますが、今後このプログラムは継続していくのですか?
加勢
今後も「ソーシャルベンチャーマーケット」として、1年間に30〜50組くらいのスタートアップ支援を、引き続き行いたいと思っています。また、このプログラムではスタートアップフェーズの支援を、さらに社会起業塾、イノベーショングラントという以前からのプログラムでは、立ち上げの次のフェーズの支援に、より質的な面にフォーカスを充てて行いたいと思っています。

–起業家のステージに合わせた支援プログラムが揃っていくということですね。
加勢
はい。また、今後は、現状の仕組みをこえて、より「マーケット」としての役割が果たせる舞台、装置を作っていきたい、と構想しています。この2年間、ETIC.が主導して、起業家と周りの起業家、支援者、リソースの意図的なマッチングを生み出すことが出来ましたが、それだけでは、価値は最大ではないと思います。意図的というのは、我々が見ている側面、範囲でしかマッチングが生まれないということです。つまり、今後はどれだけ偶然性のマッチングを引き起こせるかということ、も考えていきたいです。

–より広い「生態系」として機能する場を作りたいということですね。
加勢
生態系は、その土地の中でもっているリソースが有機的に連動することです。最近スタートアップの生態系が出来ているニューヨークの事例なども参考にしながら、東京という地域の条件の中で、どうリソースを有機的に繋げるのか、ということを考えていきたいと思っています。

(聞き手:井上有紀(慶応義塾大学SFC研究所ビジティング・シニア・フェロー))



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