第6回:「社会に目に見えるイノベーションを生み出す、生態系をつくる」 慶應義塾大学大学院特別招聘准教授 井上英之
文:井上 英之 / 慶応義塾大学大学院 政策・メディア研究科特別招聘准教授
アントレプレナーに必要なものは、個別の事業サポートやスキルを得ていくことだけではありません。特に、社会起業家が成長し、社会に目に見えるイノベーションを起こしていくためには、彼らの周辺に、それをかなえていくための「生態系」(エコシステム)が存在することが重要です。
まず、第一条件として、その事業やプロジェクトが、自分自身が本当に取り組みたいこと、自分自身のあり方や根っこにつながっていること。オーセンティック(根源的に正直で粘り強くあること)であり、アントレプレナーシップの源泉を持った起業家は、よい周辺環境のある「場」と出会うことで、自らの成長をさらに加速させます。
さらに、社会起業家がイノベーションを起こすには、自らの団体や活動だけが頑張るだけでは不十分です。事業が単体で価値を創造するだけでなく、政府や企業、競合もいる中で、より大きな目的のために、それぞれが役割を再定義し、その市場や分野のあり方ごとデザインしなおし、システム的な変化をおこしていく必要があります。
すぐれた起業家・イノベーターとは、自分の事業を創造しながらも、周辺の環境をデザインし、自らが起点となって新たな環境を生み出し、次なる産業をも生み出す。その明確な意図をもっていることが重要です。
10年前に開催した社会起業のビジネスプランコンテスト「STYLE 2002」から、今回の「ソーシャルベンチャー・スタートアップマーケット」まで、ETIC.が挑戦してきたのはこうしたことを可能にする、「生態系」の創造です。
今、社会課題解決の流れと、ビジネス・セクターのイノベーションの流れが急速に接近しています。また、政府との役割分担をどう再定義していくかというのも大きなテーマとして関心を集めています。社会全体に大きなイノベーションを起こすため、より大きな生態系をどうデザインし、それぞれの場所から創造していくか。これが、ETIC.であり、私たち一人ひとりに求められているチャレンジだと思います。
【プロフィール】
1971年東京都生まれ。慶応義塾大学卒業後、ジョージワシントン大学大学院に進学(パブリックマネジメント専攻)。ワシントンDC市政府、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、NPO法人ETIC.に参画。
2002年より日本初のソーシャルベンチャー向けビジネスコンテスト「STYLE」を開催するなど、国内の社会起業家育成・輩出に取り組む。2005年、北米を中心に展開する社会起業向け投資機関「ソーシャルベンチャー・パートナーズ(SVP)」東京版を設立。2009年、世界経済フォーラム(ダボス会議)「Young Global Leader」に選出。2010年鳩山政権時、内閣府「新しい公共」円卓会議委員。2011年より、東京都文京区新しい公共の担い手専門家会議委員、など。現在、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特別招聘准教授。