インサイド・レポート(ひと編)

SAL(ソーシャル・アジェンダ・ラボ) 休眠口座基金創設調査チーム編

ETIC.のソーシャル・アジェンダ・ラボ(以下:SAL)では、プロボノで関わるアソシエイト(プロボノで起業家を支援するリサーチャー)を募集し、様々な社会課題の調査を行っています。今回は、NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんとともに「休眠口座基金」について、世界各国の実態調査と、日本での実現にむけた提案書をまとめた4人をご紹介します。

(聞き手:井上有紀、中野身穂)

1. 玉川努さん

―― 休眠口座基金リサーチプロジェクトに関わった動機はなんですか?

玉川努さん(大手素材メーカー勤務(当時))

私は友人と、とある茅葺き屋根の家を保存する事業に関わっています。日本に茅葺きの家は3000軒程度あるんですが、年間の維持費が100万円ほどかかるんです。現在関わっている家は、文化財として価値があるということで、年50万円の行政補助が出ていますが、残りは居住者負担です。残り50万をどうやって集めるのか。将来引き継いでいく世代にどうやって残していくのか。現在、家の前に生えていた茶畑を活用し、起業家、製茶工場、行政、NPOと様々な方のサポートを受けて紅茶を製造して、来年から販売することに決まりました。年50万円の収益は出るな、と楽観的に思っていました。

しかしふと、行政からの補助金がなくなったら・・と考えると、この事業が50万円稼いでも、それだけでは茅葺き屋根は守れないと気づきました。この危機感は、実際に、別の留学生支援の団体に所属していたときに、大学から委託業務を打ち切られて立ち行かなくなったことを見てきたからです。誰かに頼ったお金は打ち切られる。最初の50万円もなんとかしなければ、文化が経済原理で壊れていく。

なんとかして民間で自律的にお金を回す仕組みはないものか。街頭の募金は限界がある。もっとお金が流れる仕組みを作らないといけない。その問題意識で、ネット検索をしていて、見つけたのが、駒崎さんのブログでした。自分が今までの活動や、ビジネスで得てきたことすべてを活かして、数千億の眠った「試金」を活かして社会変革に取り組みたい、と思いました。

―― 玉川さんにとって、このリサーチプロジェクトが何か変化のきっかけになりましたか?

このプロジェクトは、自分の人生の大きなきっかけとなった、という感覚があります。今年の4月にTwitterで、「省庁が休眠口座の件、動き出したよ」というつぶやきが流れたんですね。震災で、地元が被災して、落ち込んでいた時期だったんですが、それをきっかけに、やるぞ!という意欲が湧きました。ガンジーの「あなたが見たい変革にあなた自身がなりなさい」という言葉のように、動かなければ、と思いました。

2. 後藤真理絵さん

―― 休眠口座基金リサーチプロジェクトに関わった動機はなんですか?

後藤真理絵さん(ITサービス企業のリサーチ部門勤務)

私は将来的に、市民オーケストラやアマチュア音楽愛好家の経済的自立支援の基盤づくりをしたいと考えています。私自身、市民オーケストラに所属していて、自治体からの補助金と団員からの団費、賛助会員からの寄付(いわゆるカンパに近い)による厳しい財政事情の中、年に3回の定期演奏会を運営しています。

市民オーケストラや音楽愛好家は、高齢者やまだ収入が不安定な若手が多く、支給される年金やアルバイト代だけではまかなえず、泣く泣く活動を諦める人たちも多い現状があることが課題でした。さらに、昨年の民主党政権成立直後の事業仕分けで、文科省の文化事業関連予算が縮減・見直し対象となった(その後、全国からの意見を受け方針変更)ことをきっかけに、このまま自治体に頼っているわけにはいかないと考えるに至りました。意見提言や反対運動も大事な活動の一つですが、そもそも、行政に頼った資金調達ではなく、何か別の方法があるのではないか、と思って情報収集を始めたんです。

その過程で、ソーシャルファイナンスという考え方があることを知りました。NPOバンクやファンドレイジングを支援する仕組みが日本でも発達しつつあって、市民による市民のための資金調達が可能になってきていることを知りました。この考え方を、自分の持つ課題に当てはめられないか、と考えているんです。

―― 後藤さんにとって、このリサーチプロジェクトが何か変化のきっかけになりましたか?

私は、新たにSALで始まった、個人奨学金ネットワーク創設のためのリサーチプロジェクトにも関わり始めました。同時に、今回のプロジェクトで得た成果を元に、元々の問題意識の、「市民オーケストラの経済的自立」に関しても、新しい取り組みを実行したり、関連団体へのヒアリングを並行して進めているところです。

3. 稲垣あゆみさん

―― 稲垣さんは、実はETIC.の運営スタッフとして関わっていたらしいですね。

稲垣あゆみさん(韓国のIT企業NAVERに勤務)

はい。そのときは大学一年生でしたね。ETIC.に関わり始めたのは、高校3年の終わりの頃でした。あるきっかけで、ETIC.の宮城さんの記事を読んで、インターンが社員のように働くベンチャーの話が書いてあったんです。当時、ハンバーガーショップでアルバイトをしていて、引っ越しをきっかけに、そこでも店舗を開店するから、オープニングを手伝ってほしいと言われて関わったんです。バイト経験者は私一人だったんですが、開店に向けて、社員とぶつかることが結構あって、組織ってなんだろうなあ、って考え始めました。大学の進路も迷っている時期に、これまでやってきた部活動も、生徒会も、はたまた家族も、全部組織だ、と思いました。それで、組織論とか、組織の経営学みたいなことが学びたいって思うようになって、調べていたら、ETIC.の記事がでてきました。

ベンチャーにも興味があったけど、同時にNPO、NGO、ソーシャルワーカーにも興味があった。別々の興味だったんだけど、ETIC. に出入りするようになって、宮城さんと一緒に色々アメリカの事例も調べていました。そこに、井上英之さんがETIC.に来て、ソーシャルベンチャーのプランコンテスト「STYLE」を立ち上げるから、ということで関わりました。バラバラだったものが繋がっていったんです。ソーシャルベンチャーの、「いいことをしながらも、ベンチャーで、自立してやっていく」やりかたが、私のやりたいことに近い、と思いました。

―― 当時の稲垣さんのアンテナに、ソーシャルベンチャーがひっかかったんですね。今は、韓国のIT企業にお勤めですが、どのような経緯と、関心で動いているんですか?

STYLEに関わったり、大学でも社会起業家の勉強をしたり、インターンも大学時代に8社経験しました。その中で、「あ、社会起業家になりたい、と思って社会起業家になるってわけではないんだな」と思ったんです。いろんな社会起業家を見ているうちに、今動いている人たちは、ある社会問題やテーマに自然と出会っている。これしかない、という感覚で体が自然と動いていると思いました。それで、自分は何に興味があるのか、アンテナにひっかかる、「これだ!」と思うものに、出会っていこうと思ったんです。

それで現在は、韓国ではネットビジネスが、日本以上に面白いと興味を持って、韓国の会社で働いています。韓国やアジアの事業を日本でも展開することで、日本からのアジアへの見方を変えたい、そのような思いで働いています。

―― 今回のリサーチプロジェクトに関わって何か新たに得られたものはありますか?

仲間が増えたことが嬉しかったですね。それから、普段の仕事を頑張りながら、週末に新しいプロジェクトに関わってアウトプットが出せる、というスタイルに、満足しています。

4. 反中恵理香さん

―― 休眠口座基金リサーチプロジェクトに関わった動機はなんですか?

反中恵理香さん(シンクタンク勤務)

私は、休眠口座というテーマに関心があって応募しましたが、同時に、最近個人的に、危機感があったんです。会社に入って、業務にも慣れて、一通りのことができるようになりましたが、「このままでいいのか」という疑問が、不安や危機感になっていました。会社の外で、個人として何が出来るのか、確かめてみたい、という気持ちがありました。

これまでに、仕事で、子どもの芸術活動や、犯罪の被害者家族を支えている会など、全国のNPOの方にインタビューする機会もあって、行政の手の届かない部分が日本にはたくさんあること、それをNPOが、きめ細かく対応しているのを見てきました。そういった重要な役割を担っているのにもかかわらず、資金不足等で事業継続が難しいNPO、社会的企業に資金を行き渡らせたいという気持ちもありました。

―― 今回のリサーチプロジェクトに関わって、何か新しい発見がありましたか?

会社だと当たり前の仕事が、自分の強みになることがわかったのは収穫です。プロジェクトのメンバーが面白くて刺激になりました。

プロボノをやってみて、このメンバー以外にも、いろんな出会いがあったんです。やりたいな、とか、これはどうなっているんだろう、と思うことに、「一緒にやろうよ」という人が現れて、結構忙しくなってきました。生活が変化してきています。

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