インサイド・レポート

【ソーシャル・アジェンダ・ラボ】チーム小田知宏さんの事例から学ぶ<1>
『30名の社会起業家の卵と、80名のビジネスパーソンのすばらしい出会い』

ソーシャル・ビジネスをリサーチの側面でサポートするリサーチ・プロジェクト『ソーシャル・アジェンダ・ラボ』(以下、SAL)の第1期が、2010年8月から、1ヶ月半にわたって実施されました。公募により集まった、総勢80名を超えるビジネスパーソンが、SALのアソシエイトとなり、スタートアップマーケット・メンバーが取り組む20事業を、事業構築のためのリサーチやプランニングの面からサポート。1事業に対し、1チーム3-5名のアソシエイトがつき、各チームが期待以上の高い成果を上げました。

今回は、SALのリサーチ・プロジェクト終了後も、自主的に、継続して起業家のサポートをしているという、浜岡誠さん、吉田一紀さん、そして、リサーチを依頼した発達わんぱく会の小田知宏さんにお話をお伺いしました。

(聞き手:井上有紀、ジョン・ウォンジン)

―― 今回、お二人がソーシャル・アジェンダ・ラボ(SAL)に関わったきっかけは、それぞれ、どのようなことからでしょうか?

浜岡誠さん(SAL第一期アソシエイト・リサーチチーム プロジェクトマネージャー、三菱総合研究所 地域経営研究本部地域経営コンサルティンググループ研究員)

浜岡誠さん(以下、浜岡) 社会起業には、ずっと関心はもっていまして、2006年には経済産業省主催のソーシャルビジネス研究会の支援業務に参画させて頂いたりしておりましたが、マクロ的、政策を立案するようなタイプの業務が多かったんです。それはそれで面白いですが、現場からは少し離れている。なにか具体的に関われる機会があるといいなと思っていました。SALリサーチ・プロジェクトの募集をメーリングリストで知って、直接、社会起業家を応援できる環境だと思い応募しました。 本気で起業しようとしている方を応援したい、と思って、事前申し込みの際、特に関わりたい分野などの指定はしなかった代わりに、「本気で起業しようとしている人希望」と書きました。

吉田一紀さん(以下、吉田) いろんなセミナーに参加していた時に、仲良くなったNPOの起業家の方がいて、会社のリソースやITで支援してくれないか、と頼まれたことがあったんです。社内の社会貢献担当を紹介したり、プライベートで資料作ったりすると、すごい感謝されたんですね。仕事では比較的、基礎リテラシーのような知識でも、それを整理するだけで、すごく感謝されたり、すごいリアクションがあったりする。それに驚きがありました。今回のリサーチ・プロジェクトの案内を見て、そのようなことをもう一度やってみたいな、と思って応募しました。

―― このプロジェクトでお二人は小田知宏さんとご一緒して、どのようなことをお感じになりましたか?印象を聞かせて下さい。

浜岡 小田さんの印象は、経歴を見て、すごい人だな、と。こちらからコンサルティングできるんだろうか、と思いました。実際会ってみると、すごく物腰の柔らかい、さわやかな方で、コミュニケーションがしやすい。真面目に事業に取り組んでいて、応援したいな、という気持ちになりました。

吉田一紀さん(SAL第一期アソシエイト、NECネクサソリューションズ株式会社コンサルティング部)

吉田 小田さんは、起業家ならではの信念があって、メッセージがすごく伝わってくるし、それを実現させようとする行動力もある人です。そういうところがありながら、すごい謙虚なんです。すごいなと思いました。他のアソシエイトお二人にも言えることですが、話を丁寧に聞いてくれて、建設的な議論ができる。同じチームだったメンバー含め3人とも、人柄が新鮮というか、一番印象的でした。

―― プロジェクトマネージャーの浜岡さんとしては、同じチームのアソシエイトの方々をどう思いましたか?

浜岡 アソシエイトは、吉田さんと山田宗芸さんが同じチームでした。2人はそれぞれタイプが違う。吉田さんは、スキルがあって、とてもクールなコンサルタントという印象。もう1人の山田さんは、ご自身でNPOも立ち上げている方で、昔世界を放浪していたんだそうです。アソシエイト同士も初対面のところからのスタートですから、吉田さん、山田さんがどんな方で、どのようなことが得意かわからない中で、初めての顔合わせの翌日が、早速、ステークホルダーへのヒアリングだったんですね。

ヒアリングそのものは仕事で普段からやっていることですし、成果をまとめたり、資料に落とし込む作業も、普段の仕事と同じですが、ヒアリングやディスカッションについては、タイプの違う2人から、自分だけでは思いつかない、予想しなかった方向からの質問が出てきて、面白かったですね。

―― 今回のリサーチ・プロジェクトに参加してみての感想はいかがですか?

浜岡 納期までの時間がとにかく短かったですね。事務局運営も含めて、よくこのスピードでやるなあと、半分感心して見てしまいます。20以上のリサーチ・プロジェクトを1ヶ月半で仕上げるというのは、我々の会社の調査で考えても、あり得ないです(笑)。

―― 報告書を拝見すると、とても精度が高いと感じます。

浜岡 普段ののシンクタンクで行う調査でも同じなんですが、お客さんの意識がすごく高いと、成果も高くなる。低いと、手を抜く訳ではないんですが、出てくるアウトプットは自分たちの想像の域を超えない。アウトプットは、起業家と支援する人の融合の結果だと思います。相互のやりとりによって、アウトプットのレベルが変わる。支援者側だけが先走って考えても、意味がない。その時点における起業家のニーズをうまく吸い上げて、前に進めるようにする、ということが重要だと思っています。

今回の場合、小田さんと話していて、「この人は、私たちがいなくても、きっと突き進んでいくだろうな」と感じたんです。実際、小田さんはやるべきことは、全部やっているんです。私たちのヒアリングの調査先も、小田さんの知り合いからピックアップして、セッティングもできている状態でしたし、調査のための文献も小田さんから教えていただいたものです。そういう中で、ふつうにやるだけだと、小田さんの想定範囲内になってしまう。ならば、あえて僕らには何ができるだろうか、と考えました。

実は、中間報告の時点で、ステークホルダーへのヒアリングと文献調査という、当初小田さんと設定した目標を達成してしまいました。中間報告を終えて、「実は、できれば、自分自身が事業をどう展開していくか、アイディアがほしい」と、小田さんから別の要望が出てきたんですね。「浦安で起業して、少しずつ増やしていく方法を考えていたが、よりインパクトのある事業モデルを一緒に考えてほしい。」ということでした。実現するかは別にして、小田さん自身が描ききれていない部分を、考えてみよう、ということになったんですね。

>> リサーチの結果はこちらからご覧いただけます。

―― 小田さんの期待以上のものを出したい、というところに、踏み込んでいますよね。

浜岡 普段の仕事でも、意識したいと心がけているところではありますね。時間が絶対的に足りないこともよくあるけど、意識としては、クライアントの予想を上回れるものにしたいと思っています。

実は、報告書にも残っていないですが、小田さんが持っていたニーズに合わせて、アンケート実施なども、途中で提案していたんです。実施先のOKもいただいて、アンケート調査票の作成もしていました。最終的には検討した結果、実施はしなかったですが。

リサーチを依頼した小田知宏さんにも、今回のプロジェクトについて伺いました。

小田知宏さん(発達わんぱく会、ソーシャルベンチャー・スタートアップマーケット 第一期スタートアップメンバー)

小田知宏さん(以下、小田) リサーチ・プロジェクトのアウトプットは本当に質が高かったと思います。最初お願いしたことを、中間報告の時点で、全部完璧に出してこられたんですね。そうしたら欲が出るじゃないですか(笑)。そこで最終報告に向けて、中間報告の成果を踏まえて、次のステップに繋がる提案をお願いをしたんです。

「浦安はなんとかうまくいきそうです。でも、この問題で困っているのは浦安だけではない。私は解決策を全国に広げていきたい。全国に広げるために、今まで調べた結果をもとに、プラン、アイディアを下さい」。僕としては、こんな優秀な方々が近くにいるなら、何らかの解を一緒に考えたいと思いました。そしてほんとうに素晴らしいアウトプットを出していただきました。

事業を立ち上げるのに不可欠な、顧客のニーズを把握して、自社のポジションを明確にするような過程を、自分ではやっているつもりでも、今思えば抜けてしまっていた。自分だけでは気づけなかったと思います。それをアソシエイトの3人に、一緒にやってもらって、順調に今事業が立ち上がってきている。事業を次のステージに進めるための重要な階段を一緒に作ってくれたと思っています。

―― SALリサーチ・プロジェクトは、10月で終了しましたが、その後も、アソシエイトの3人は引き続き小田さんを支援していると伺いました。中には、所属している会社としての活動もあると聞いています。

吉田 リサーチ・プロジェクトが終わった後も、IT系で引き続きお手伝いしようかなと思って、進めています。これから、小田さんの事業では、お子さんのデータなどを管理していく必要がある。セールスフォース・ドットコムのSalesforce CRMというツールが、非営利団体向けに無償で提供されていますので、こちらを活用しようという話になって、導入に向けてお手伝いしています。

―― 吉田さんのこの活動を、会社の部署としても応援している、と伺いました。

吉田 はい。私が所属している部署の部長に伝えたところ、就業時間中に社内の仕事として小田さんの事業の作業をしていてもいいと言ってもらえました。というのも、以前からNECが行ってきたNEC社会起業塾に関連して、NEC版のプロボノと言える「社会起業塾ビジネスサポーター」というプロジェクトがあり、これを社内の勉強会で紹介してもらったことがあるんです。その時に部長が「プロボノって面白いね、今後も活用できればいいね」、と理解を示してくれたんです。企業として、こうした活動を通じて若手のスキルアップにつながるということにも価値を感じているんだと思います。

―― 部署内の他のメンバーも小田さんの事業支援には参画なさっているんですか?

吉田 そうですね。支援内容としてITが濃くなってくるので、社内でこの分野に強い人を巻き込みたいなと考えています。先日、社内のある勉強会で、小田さんにはプレゼンテーションをしていただいたんです。勉強会では、部署内外から約20人の参加だったんですが、建設的な議論ができたなと思います。特に、2-30代の社員の反応がよかったですね。特に小さい子どもがいる方には、小田さんの取り組んでいる発達障害の子どもたちへの支援が、気になるテーマだったようです。こうして少しずつ社内の他の社員とのつながりが、生まれつつあります。

―― 浜岡さんは、プロジェクト終了後、小田さんとどのようなやりとりをされているんですか?

浜岡 私は、仕事上行政とのおつきあいも多いので、小田さんが先日、浦安市の共同提案制度という事業に応募される時に、どのように小田さんの事業を伝えると効果的か、というところを少しお手伝いしました。小田さんは、やることは全部やっていらっしゃるので、それをどうアピールするのかをお伝えしただけですけれど。

―― 実際に、その提案は通ったようですね。小田さんは、SALリサーチの内容や、浜岡さんのアドバイスがなかったら、通らなかったかもしれない、とおっしゃっていました。

浜岡 いえ、小田さんの実力がきちんと認められたということだと思いますよ。

もう一人のアソシエイト、山田さんも、現在では発達わんぱく会の正会員になり、法人の運営にも深く関わっていらっしゃるそうです。小田さんにとって、強力なサポーターをSALを通して見つけたと言えるのでしょう。一方のアソシエイトの方々も、プロジェクトを通じて、小田さんの事業に対する想いや姿勢に触れ、学びや新たな発見、また普段のお仕事の価値を再認識する機会ともなったようです。

後編「【ソーシャル・アジェンダ・ラボ】チーム小田知宏さんの事例から学ぶ<2> 『本当のプロボノとは何か』」では、プロジェクトが成功した理由や参加した方々から見たSALプロジェクトについて伺います。

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ソーシャルベンチャー・スタートアップマーケット



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