インサイド・レポート

【ソーシャル・アジェンダ・ラボ】チーム小田知宏さんの事例から学ぶ<2>
『本当のプロボノとは何か』

ソーシャルビジネスを支援するリサーチ・プロジェクト『ソーシャル・アジェンダ・ラボ』(SAL)。前回は、第一期リサーチ・プロジェクトのアソシエイト・浜岡誠さんと、吉田一紀さん、そしてリサーチを依頼した、発達わんぱく会の小田知宏さんに、実際のプロジェクトの様子をお話いただきました(前回の記事はこちら)。今回は、引き続き3人に、プロジェクトが成功した理由や参加した方々にとってのSALの魅力について伺います。

(聞き手:井上有紀、ジョン・ウォンジン)

―― 今回の『ソーシャル・アジェンダ・ラボ』のリサーチ・プロジェクトについて、どう思いますか?

発達わんぱく会 小田知宏さん

小田知宏さん(以下、小田) 最初は正直、「リサーチに、意味があるのだろうか」と半分思いながらも、ETIC.がやるからには、なんらかの意味があるだろうと思って始めたら、すごく意味があった(笑)。

顧客のニーズを把握するということが、最初はピンとこなかったですね。「ニーズなんて、あるのが当たり前じゃん」って。自分では、想いがあるから、絶対にニーズはあると信じている。起業家がニーズあるかどうかに疑問を持ってたら、怖いから事業なんてできないでしょう。

ここに第3者からの視点が必要になると思います。浜岡さんたちに「それ、ニーズあるんですかね」と言われると・・・、「いや、わからないけどありますよ」と(笑)。第3者の視点で、リサーチに入ってもらったことで、全体像が見えて、自分のやるべきところが明確になりましたね。若干ずれていたなと思うところもあったし、ここをもっと強くしていかなければ、という部分が見えてきました。

プロボノ成功の秘訣1. 基本姿勢―”お互い本気”

―― 浜岡さんチームのように、リサーチ・プロジェクトが終わっても、スタートアップメンバーとの関係が続くようなつながりがどんどん増えてほしいですよね。このチームがうまくいったのは、なぜだとお考えですか?

浜岡誠さん(SAL第一期アソシエイト・リサーチチーム プロジェクトマネージャー)

浜岡誠さん(以下、浜岡) そうですね。起業家と、アソシエイトが、お互いに本気、というのが一番大事だと思います。本気で事業をやっている人に対して、本気で応援をする。アソシエイトもその本気を受けいれてもらえたら、嬉しいし、そこから生まれるアウトプットによって、起業家もうれしい。そうすると、仲間意識ができると思うんですね。それが信頼のベースになると思います。すると、なにか助けてほしいな、と思ったときに、また連絡しやすい。まずは、最初のリサーチ・プロジェクト自体に、ベストを尽くすことが基本になると思います。それがうまくいけば、今後も続いていくんだと思いますね。

小田 非常に短い期間で、実際には5回のミーティングでした(中には2回しか実際には会っていない方もいました)が、人間的に信頼できる、というベースがあって、その上で相互にとってメリットがあったから、うまくいったんじゃないでしょうか。お互いに魅力を感じたんですね。

初回の打ち合わせで、「本当に俺はこれやりたいです!なんでかというと、子どもが困っています。これが実現すれば、困っている子どもが少なくなるのです、ぜひ協力してください。」という想いを伝えました。自分は、発達障害児支援を本当にしようと思ってるし、この事業を実現すれば、発達障害の子どもたちを幸せにできると思っている。でも自分だけではできないから、色んな人たちの力を借りるためには、口下手ながら、伝えていかなければいけない。僕が信じているから、それに共感してくれる人にとっては、「じゃ、私も何かしようかな」と思うかもしれないですね。

でも、私が思いを伝えて、ただ理解しただけでは、あのレベルのアウトプットはできないと思います。「わかりました」だけでなく、「もっとこうすれば」という姿勢が、アソシエイトの3人にはありました。もしも彼らが受身で、言われたことをやるだけだったら、今回のレポートの3分の1ぐらいしか出てこなかったでしょうね。3人のアソシエイトの方々ともに、スキルがあっただけでなくて、能力をフルに活かし、リサーチに足を運んで、時間をかけてくれました。もしかしたら仕事の時間も使って、作成していただいたんじゃないかな(笑)。そうでなければ、あのレベルはできないと思います。

プロボノ成功の秘訣2. 起業家の本当のニーズを汲み取れるまで聞いて・考えて・動く

―― 「ふつうににやるだけだと、小田さんの想定範囲内になってしまう」と、浜岡さんが、小田さんの期待を上回るアウトプットを出したいと考えていた話がありました。

浜岡 事務局から最初に提示された、規定のアウトプットテンプレートはよく出来ているなと思いました。初めてのプロボノの場合に、このようなテンプレートがあるとイメージがつかめていいですね。ただ、実際にはフォーマットに従ったところと、そうでないところがあります。

吉田一紀さん(SAL第一期アソシエイト)

吉田一紀さん(以下、吉田) もともと事務局から用意されていたものを超えて、小田さんと話をしていく中で、作成するリサーチレポートの内容が決まっていきました。結果として、リサーチの部分もありましたが、実際には、事業の整理や、今後の展開の方法のアイディア出しが、一番感謝されたところでした。4人の中で共有して、同じ方向に向いていくことができたので、うまくいったと思います。

小田 私からリサーチしていただきたいテーマを、アソシエイトチームにお願いするわけですが、それは結構ぼやっとしていました(笑)。それを3人によって、形にできたのがすごいと思います。それは、言われたことをやるだけでは、絶対にできない。「自分がこの事業をやる場合、必要なことはなにか」という視点と、本気の想いがあったと感じます。

“本当は、まだ具体的に描ききれていない部分を、一緒に考えてくれる相手がほしい”(起業家)。

“本当は、今抱えている問題は、起業家自身の想像とは、別のところにあるのではないか”(アソシエイト)。

起業家の置かれている状況を深く分析すること、あるいは可視化されていない本当の起業家のニーズに応えることは、スキルも伴うが、その前提には、起業家の話を聞き、考え、話し合い、行動するというコミットメントが何よりも重要になってくるだろう。

プロボノ成功の秘訣3. プロジェクトマネージャーのマネジメントとアソシエイトの自主性

吉田 うまくいった要因で大きかったと思うのは、浜岡さんの、プロジェクトマネージャーとしての一連のマネジメントですね。明確に分担を区切ったり、すり合わせをしたり、全員で集まってミーティングをしたり、気持ちのよいマネジメントをしてくれました。もう一つは、アソシエイトそれぞれの自主性ですかね。用意されたテンプレート以上のことを、各々が勝手にやりだして、そういうのが、一番評価される部分だった気がしますね。山田さんが、図書館でいっぱい文献を借りて、すごい量を読んで来られたり、ヒアリング対策も山田さんが一人で調べて作ってくださったり。そういうのは、リーダーである浜岡さんの指示無しでやっていたと思います。

―― 浜岡さんのマネジメント能力が成功要因に挙っていました。

浜岡 プロジェクトの進め方は、本業と近いところがありました。私が所属している社会科学系は、いろんなスタンスの人がいて、うまく多様な意見や、いいところをひきだして、形にもっていくということが必要とされています。

実は、私はプロジェクトマネージャーをやるのは、今回のSALが初めてでした。今回は、山田さん、吉田さんとお話をする中で、それぞれの得意なところを見つけて、分担をして、場を作っていこうと意識しました。分担が明確にあると、プロジェクトに主体的に関わりやすくなり、参加意識が芽生えてくると思います。

―― ボランティアマネジメントの難しさってありますよね。

浜岡 そうですね。同じ組織に属している企業の場合は、力関係で動くことが多いと思います。しかしここでは、完全にフラットな関係です。スキルもモチベーションもバラバラで。まして、初めての人同士での仕事。マネージャー的立場の人が、“引き受ける覚悟”をすれば、周りはのっかりやすくなるのではないでしょうか。中心の軸になる人がいると、プロジェクトが前に進みやすいと思います。また、これまでの経験、場数も必要だと思います。私の場合、社外の人との勉強会などの経験値も活きたかもしれません。

SALの魅力と可能性

―― 浜岡さんは、SALプロジェクト自体を、執筆予定の書籍で取り上げたいと、考えられているそうですが、そう思った理由は?

浜岡 本の内容はまだ構想中ですが、ETIC.のSALプロジェクトは、壮大なソーシャルマーケティングの仕掛けだと思ったんです。募集していたのは、リサーチャーやマーケッター。SALがやろうとしているのは、リサーチやマーケティングしている人たちが、想いだけで動こうとしている起業家を、第三者的に咀嚼して、世の中のニーズと噛み合うようにしていく、ということだと思うんです。それを、驚異的なスピードで、複数同時にプロジェクトにしていく。公募をかけて、社会起業に関心のある人たちの中から、有志をつくりだしていく。ビジネスパーソンに、きっかけを提供しているんだと思います。SALで生まれた出会いは、これから、いろんな形に発展していくものだと思うので、単発的な支援とも少し違う。すごく踏み込んだもので、SALの試みそのものが、先進的だと感じます。

―― 今回のプロジェクトを、ソーシャルマーケティングとして捉えることは面白いですね。

浜岡 ソーシャルマーケティングにもいろんな意味があると思うんです。社会的起業にとっては、「事業のニーズをつかむ」ことを、ソーシャルマーケティングと言うこともあると思います。しかし、起業家が自分たちで行うには、必要とは思っても、リソースが足りない。その部分がプロボノで、うまく補完されれば、両者にとってメリットがあるし、社会にとってもメリットがあると思います。

―― みなさんの、今後の展望を教えて下さい。

吉田 働いたり、生きていく上で、誰かの役に立ちたいなというのがベースとしてあって、SALの取り組みの中で、小田さんという非常に魅力的な起業家の方と、発達障がい児への療育という社会的意義が高い事業に出会えたご縁を、大事にしたいなと思います。あとは、自分の能力をためす場、機会としても魅力的だなと思いますので、当面はこの延長上で、小田さんの事業に一緒に関わりながら、可能な範囲でセミナー等への参加や情報収集をしていきたいと思っています。

浜岡 プロボノの面白さを、SALと通して初めて体感できました。できればまたやりたいと思っています。同じチームだった、もう一人のアソシエイトの山田宗芸さんも、さらに第2期リサーチ・プロジェクトにも関わられているようですね。このような具体的なフィールドで、実践で学びながら、同時に、役に立つソーシャルビジネスのリサーチは、どんな意義があるのか、ということについても、可視化していければいいなと思います。

―― インタビューにご協力くださり、ありがとうございました!

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