番外編:『第5回運営幹事会—2010年度活動報告と今後の計画』
第5回運営幹事会(2011年4月6日)では、震災復興プロジェクトの議論に加えて、内閣府事業の2010年度実績報告と今後の計画を、各事業部門から発表し、議論を行った。(5時間におよぶ幹事会の中から、一部の内容のみ抜粋する。)
*出席者:石川治江氏、井上英之氏、川北秀人氏、佐藤真久氏
(*小城武彦氏、田坂広志氏は、所用により欠席)
(筆者:井上有紀)
―起業家の集う「ソーシャルベンチャー・マーケット」の形成へ(社会起業創業支援事業)
加勢雅善(ソーシャルベンチャー・スタートアップマーケット部門責任者)より報告:
創業支援事業「ソーシャルベンチャー・スタートアップマーケット」では、第2期までに260名の応募の中から、67名のスタートアップメンバーが決定し、4月8日に〆切を迎える第3期のメンバーを含めた計95名の創業支援を行っていきます。
2011年度をもって、内閣府事業としては終了する「スタートアップマーケット」を、ETIC.の自主事業として今後も継続的に運営していきたい、「創業期支援(スタートアップマーケット)と成長期の支援(社会起業塾イニシアティブ、イノベーショングラント)の2段階のプログラムを充実させ、全体として、ソーシャルベンチャーの起業家の集う市場(いちば)、“ソーシャルベンチャー・マーケット”となっていくように準備していきたいと考えています。
幹事からのコメント:
井上英之氏—「ここまでくるのに10年かかっているんです。2001年に『STYLE』をスタートした時から明確に“ソーシャルベンチャーのマーケットを作りたい“と言ってきました。ここまでいろんな失敗があったり、転んだりしながら、一つ一つ積み重ねて、ここまで仕組みになってきたことを思うと、とても感慨深いですね。」
ETIC.ではこれまで、ソーシャルベンチャーのビジネスプランコンテスト「STYLE」(2001年〜)、「社会起業塾イニシアティブ(旧・NEC社会起業塾)」(2002年〜)、「イノベーショングラント」(2008年〜)と、ソーシャルベンチャーを志す起業家を応援するプログラムを、日本で先駆けて作ってきた。
井上氏—「しかし、まだ課題も当然ある。プログラムの規模が大きくなる中で、大切な価値観、新しい事業を立ち上げようとする起業家への敬意の気持ちが、全関係者まで伝わりきっていない。仕組み化していく中でも、大事な価値観をつなぎ止めるのは、一人一人現場のスタッフであり、その現場からフィードバックして、仕組みにしていく、ということが重要です。」
幹事会では改めて、数字での達成率やKPI (Key Performance Indicator)だけでなく、一人一人の大事な声を拾っていく必要がある、と確認した。
―「2010年度は大学と連携を構築できた」—日本全国チャレンジ・コミュニティ(チャレコミ)化構想(インターンシップ事業)
ETIC.の創業期から中心事業としてきた、若者の挑戦と企業経営者の挑戦を同時に後押しする、「アントレプレナー・インターンシッププログラム(EIP)」(1997〜)も、内閣府事業受託を機に、さらに多くの関係者と連携し、他地域で展開できる仕組みにするため、これまでの知見を活かした新しいプログラム「ソーシャルビジネスインターンシップ」「ソーシャルビジネス実習」「地域イノベータープログラム」を2010年からスタートした。
伊藤淳司(インターンシップ部門責任者)より報告:
2010年度は、16の地域事務局団体と共に、485人がインターンを実施、目標達成率は90%でした。2010年度の大きな成果の一つは、全国45の大学と、連携関係が構築できたことです。2011年2月には、全国のインターンシップ事業に取り組む大学の教員および、大学と共にインターンシップを運営する地域事務局が一堂に会し、成果報告会を行いました。2004年より全国に事業を広げ、「日本全国チャレコミ化計画」を言い続けてきていますが、今後もその目標は変わらずにやっていきます。来年度に、今年度の倍近い人数のインターンシップを実施する目標を掲げていますが、その達成だけでなく、数が増えても質の管理ができるように、各地のプロジェクト設計など進めていきたいと思います。
幹事からのコメント:
佐藤真久氏―「2月の初級インターンシップ成果報告会では、各地域の大学の教員がつながり、各地の知が共有されて、かなり面白い会でした。ただ、現時点で大学の中で、教員一人で頑張っている、という状況もあります。」
井上氏―「ETIC.のインターンシップは、世界的に見ても、まれな発展の仕方をしてきているんです。他でインターンシップといった時に、ETIC.が生み出している新しい文脈の意味はないですよ。単に職業体験、就業体験といった意味が多く、起業家精神の醸成や挑戦ができる機会としてのインターンシッププログラムが育っているケースは、ほとんどありません。」
川北秀人氏―「インターンシップ事業を大学全体の動きにつなげていけるような、大学が関わりやすい仕組みづくりが必要です。実践報告ができる、インターンシップの学会、コンソーシアムのような場があってもいいかもしれません。」
―プロボノのリサーチによって起業家の課題解決を加速させる—ソーシャル・アジェンダ・ラボ
石川孔明(リサーチ部門責任者)より報告:
内閣府事業を機にETIC.としての新たな試みである「ソーシャル・アジェンダ・ラボ(SAL)」は、2010年度に、延べ101人のプロボノで関わるリサーチャーを巻き込み、26のリサーチプロジェクトを実施しました。第1期から第3期まで、プログラムにも改良を重ねています。社会起業家からのリサーチの依頼もくるようになり、「「休眠口座基金」創設プランプロジェクト」では、政府への政策提言にも繋がっています。
“ラボ“の名の通り、社会のさまざまなアイディアを「実験する場」となっていきたいと考えています。R&DのDevelopmentを得意とする社会起業家と、Researchを得意とするプロボノリサーチャーをマッチングして、多くのソーシャルアジェンダを解決するモデルづくりを後押ししていきたいです。
幹事からのコメント:
井上氏―「どこまでプロボノだけで回せるのか、という根本的なテーマがあります。フルタイムでコミットできる人がいないと、イノベーションは起きない。リサーチするプロボノに成長してほしいということと、社会課題を解決したいという2つのミッションをどうかなえるのか、という大きな問いですね。」
石川治江氏―「以前プロの板前さんが、私たちのケアセンターやわらぎに見学にきて、厨房のおばさんたちの仕事を見て、『こうやって卵焼きを作るのか』って、学んで帰ったんですよ。プロ『に』学ぶのではなく、プロ『が』学ぶ機会になりうる。プロの認識が変わっていくことが、本来のプロボノなんだよね。それをこのプログラムでやっていかないと、ということですね。」
日本全国で、インターンシップを通じた「チャレンジするコミュニティ」、社会起業家と彼らを応援する生態系として「ソーシャルベンチャー・マーケット」を創り、若手人材、社会起業家を輩出していきたい。ETIC.の10年来の構想が、形になりつつある。SALという新たな実験の場も生まれ、今後も、日本の中で芽吹く新たな挑戦の火種が、より大きなエネルギーとして花開くように、ETIC.も邁進していきたい。