インサイド・レポート(ひと編)

インターンを受け入れる起業家の声:株式会社ウィンローダー 高嶋民仁さん(代表取締役社長)

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(聞き手:井上有紀)

−−ウィンローダーの社長に就任される前、アメリカで高嶋さん自身がインターンの経験をされたと伺っています。

高嶋民仁さん(株式会社ウィンローダー 代表取締役社長)

高嶋民仁さん(以下、高嶋) はい。アメリカのWaste Industriesという廃棄物処理の会社で、約4ヶ月インターンとして、経営者の人の間近で働かせてもらいました。インターンといっても、プログラムが準備されているわけではないんです。何にもない。ぽかんと一日座っていたとしたら、それで終わってしまう。

でも「あれをやってみたい」と、自分から提案していくと、必ずやらせてくれるんです。経営者にインタビューしたいと言えば、アポイントをとらせてくれたし、幹部会議に出たいと言えば出席させてくれた。

インターンシップだからこそ、「あれをやりたい」「こんなアイディアはどうか?」と言えば、答えてくれるんだ、ということを、この時知ったんです。

こんなこと言ったら悪いんじゃないかな、と気を使うこともあると思うんです。でも、言ってみるものだな、と学びました。

インターンっていいなあと、その時思いました。考えてみれば、お給料もらっているわけでもない、何のために来ているのかと言えば、勉強しにきているわけです。だから、自分のためになりそうなことを、色々挑戦してみたし、現場にも入りました。

いろいろやらせてもらう分、なにかしらの価値を返したい、そう思いました。これは価値交換だ、と。自分だけ勉強して終わるのでは、自分の価値を出していない。何かしらの価値を提供する。それが私の経験したインターンでした。ものすごくいい経験をさせてもらった4ヶ月で、この経験があったからこそ、今の事業も出来ていると思っています。この会社には感謝しています。

−−アメリカから帰国されて、社長に就任されたんですね。

高嶋 日本に帰ってきて、ウィンローダーを引き継ぐことになった時、運送業界というのは、旧態依然として、うまくいっていない会社も多い状況でした。私はたまたま3代目として生まれて、運送業を仕事にする意識をずっと持っていましたが、たとえば、同じ慶應の大学生が、運送業の中小企業を選ぶかと言ったら、選ばないですよ。運送業を受けることをまず考えないし、さらに中小企業に入るという選択肢にあまりない。やる気のある優秀な人たちを呼び込むのが、なかなか難しい状況でした。

これから30年、40年、自分の人生をかけてやっていく事業で、そういう若者に対して、なんとか魅力を見せていきたい。そこで、自分が興味をもっていた環境問題や廃棄物の問題というのも、うまく掛け合わせることができないかと考えて、「エコランド」という新しいビジネスモデルを作ったんです。

−−ETIC.にはその頃出会ったのですか?

高嶋 なんとか魅力的な会社にしたい、若い人たちがたくさん入ってくる会社にしていきたい、と思っていた時に、出会ったのが、ETIC.でした。ETIC.っていうインターンを派遣してくれる面白い団体があるらしい、というのをどこかから聞いたんですよ。激熱らしいって。その頃のETIC.のインターンシップのホームページ、なんだか赤くて、何かいてあるか、よくわからなかったんだけど(笑)、連絡してみたら、ぜひやりましょう、と言ってくれて、「インターンシップフェア」というイベントで募集をかけたんですよ。

新規事業という新しいドライブをかけながら、60年続いている会社で新しいビジョンを作る、という戦略の根底から、ETIC.は一緒に考えてくれました。

−−新しいベンチャーを立ち上げるのと違って、何十人も自分の先輩に当たるひとがいる環境下で、新しい社長として、会社を率いていくのは大変ではなかったですか。

高嶋 60年続く会社ということは、自分よりも前に入っている社員も多くいる。その中には、漫然と会社で働いている人もいるわけです。その中で、社長になって、新しい事業を立ち上げながら、新風を巻き起こす、ということは、なかなか難しいことでした。変わりたくないという気持ちの人もたくさんいる。本当に挑戦で、だからこそ、ETIC.の力を借りたんです。

ETIC.と、そしてETIC.が連れてきたインターン生と一緒でなければ、ここまでできなかったですよ。彼らが一緒でなければ、自分の気持ちも折れてしまったかもしれない。

−−なるほど、高嶋さんにとっては、ETIC.やETIC.からのインターン生は仲間のような存在なのですね。

高嶋 本当に仲間ですよ。ETIC.から来る学生は、皆、ものすごく熱い気持ちを持って入ってくれるんです。10年前に、最初にインターンで入ってくれた人たちも、劇的に熱い。ETIC.ではインターンを始める前の学生に、本気になるように脅しみたいな喝を入れるでしょ(笑)、あれが本当に有り難くてね。

ただなんとなく会社に入ってくるんじゃなくて、「会社を変えていきたい」という僕の思いと一緒になって、既存の社員とも向き合ってくれました。僕の分身が増えたようでしたね。こんなにありがたいことはないですよ。

自分も心が折れそう、と思っているくらいだから、何人かのインターンは折れてしまう人もいたけれどね。

−−社員の方たちは、インターンの学生を、最初どのように見ていたでしょうか。

高嶋 けむたい存在ですよ。私も含めてね(笑)「なんで、おれたちの生活を変えようとするんだ!」って、10年、20年会社で働いて生きてきた人は思っていたと思いますよ。あまり変わりたくないと思うのは、人間の性質ですしね。

今は有り難いことに、そんな風に思う社員は一人もいなくて、1から変えようよ、というと皆考えてくれる。「社長が来たから、何か変わるのかな。何か新しいことやるのかな」って、皆考えてくれていますね。

−−変わることをいとわないということが、会社の風土として根付くのにどれくらいかかったのでしょうか。

高嶋 今のようになるまでに、10年は大げさかもしれないけど、5年はかかったと思いますよ。最初は社員との衝突。そこからお互いに理解しようという姿勢に変わって、お互いに納得して、融合していった。

−−インターン生も高嶋さんと一緒になって、社員と衝突したのですか。

高嶋 うん。一緒になって、最初に衝突してくれたことが、本当によかったと思うんですよ。最初の衝突がなければ、表面的には融合に見えて、実際は妥協になっていたのではないかと思います。彼らインターン生たちがいたから衝突できたし、社員に理解してもらおうって、必死だった。社員の方も、「変わらなければいけない状況には、薄々気づいているけど、変わりたくないと思っているところがある」という気持ちが表に出てきて、お互いに理解していったんです。

−−普通の社会人でも、既存の社員や文化との衝突を経験している人は多くはないかと思うんですが、ましてインターン生にとっては、最初のリアルな社会の現場が、そのような状況下なわけですよね。

高嶋 だから余計にいいんですよ。この会社に一生勤めるわけではない、と思っている、期間限定だからこそできる、後腐れなさですね。だから衝突できるというところがある。
今後30年勤める会社だったら、馴染もうとしてうまくやってしまうと思いますよ。だから、学生の間だけ燃えていたい、その気持ちの方が、それですごくよかったと思う。

そんなに優秀な学生だったら、社員としてなぜ採用しなかったのか、とよく聞かれたんです。でもそう言われてみればそうだけど、その時は、考えもしなかった。それが目的ではなかったですから。

−−彼らが、インターンではなくて、正社員やアルバイトだったら、状況は違っていましたか?

高嶋 正社員やアルバイトだと組織の力学が働きますよね。「あんたは本気で変えようと思っていたって、そうはいっても、こちらは10年、20年やっている先輩でね、まずは礼儀から、始めるものでしょ」って、もしそう言われたら、その通りですよ。

インターンだったから、「君たちは、礼儀はどうでもいい。君たちに残された時間は、あと半年しかない、3ヶ月しかないんだ。その間、本気でぶつかろうよ。一生懸命やったら、その後の結果はなんでもいいじゃん!」そんな風に、彼らには言っていたと思います。

−−インターンがウィンローダーに入って、新しいドライブがかかっていくきっかけになったんですね。

高嶋 うん。ドライブがかかった。僕自身も、それだから折れなかった。彼らに、そう言っている分、一緒に彼らがやってくれたからね。僕の心の支えだったよ、ETIC.は(笑)みんながいなかったら絶対できなかったですね。

最初にETIC.が送ってくれたのは、赤松くん、矢辺くん、宮下さんという3人のインターン生で、ものすごくいいメンバーでした。矢辺が現場にガンガン入っていって、でも実際に社員と衝突するのは赤松、それをまとめるのが宮下、という絶妙のチームでしたね。その後4人目に森岡くん、インターンを思いっきり頑張っていたら大学5年生になっちゃった。その後、杉山、中尾という東大理工の2人が入ってきてね、 「現場って、こんな風になってるんですねー。」って言いながら、10年前の運送業の中小企業にしては、かなり熱い会話が行われていましたよ。

−−新鮮な目で、いろいろ驚いているインターン生がいると、社員の人にも刺激になりますよね。

高嶋 そう。だからだんだん社員も巻き込まれて、そういう空気になっていったんですね。

−−ほかにインターンを入れたことで、会社に変化がありましたか?

高嶋 会社の新卒採用で、人がとれるようになったんですよ。それまでね、会社説明会開くんですけど、来るのが1人とかの時もありました。1対1。募集かけているのに、0とか、4人とかね。10人来ると多いねって言っていた。そういう状態は5年くらい続きました。でもだんだん形が出来始めて、社内の雰囲気が変わるのと、ちょうど同じくらいの時期に、たくさん学生が集まってくるようになったんだよね。30人とか、集まるようになって、人が採れるようになってきたんですよ。

インターンというのは、経営者も関わらないといけないし、インターン生も自分から絡んでくる、その両方が必要だと思うんですよ。だから、社員がとれるようになってきたタイミングで、インターンを受け入れるのを一時期やめました。新卒の人達にしてみれば、なんで俺らのこと大切にしてくれないの?と思うんじゃないかと思ってね。

でもまた受け入れ始めたんですよ。再開したのも理由があります。社員の研修などが、仕組みとして出来上がって、整ってきたときにね、ふと、「あれ、あの頃の熱さがない!」と思って、反省したんです。それで、またインターンの力が必要だ、と思ってね。

−−インターンで来る学生にはどんな期待をしていますか?

高嶋 「やりたいことは何なのか、直接提案しなさい。」って入ってくるインターン生には言っています。インターンからからんでこないと絡めない。これはお互いの関係性じゃないですか。アルバイトの場合は、そういう提案する前にこれやれよ、ってなっちゃうし、正社員も、そうだけど、インターンはそれとは別軸で考えられるはずなんですね。本当に自分がやりたいこと、こういう理由で、これを学びたい。そのためには、これをやってみたい、というのが言えてほしい。そして会社から答えてもらったら、それに学生が自分なりの、どういうバリューを出すのか、という掛け合いが重要じゃないですかね。

−−ETIC.のインターンって?

高嶋 ETIC.の言葉で言うインターンと、採用のためのインターンって、定義が違っているんですよね。インターンという言葉にも、今はいろんな意味がありますからね。

−−インターンシップに限らず、ETIC.の様々な事業に関わり続けていただいている理由は?

高嶋 好きだからですね。そこにいることで、思い出せるものや、思い起こせること、そういう感情面のところが、ETIC.にはいっぱいあることを、肌で感じる。たとえば、宮城さん(ETIC.代表)が、言っていることって、以前と変わらないんですよ。だから、自分の中では、当時の感情を、呼び起こさせる。佐々木さんや山内さんが追い求めているもの、顔つき、目つきが10年前と変わらない。目から出ているものが変わらないから、それを感じる自分が、10年前の自分と変わりたくないと僕も思うので、呼び起こされる。

−−ETIC.を一言でいうと何でしょうか?

高嶋 共にたたかってきたメンバーであり、これからも共に一緒にいたい人たちですね。



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