ETIC.には、なぜ起業家と、元気な若者が集まっているのか?(下)
彼らを応援するために、多くの先輩起業家、経営者、ビジネスパーソンらが
集まり続けている。それはなぜだろうか? ここでは、ETIC.のインターンシップ事業の中から、その理由を探ってみたい。
(筆者:井上有紀(慶應義塾大学SFC研究所ビジティング・シニア・フェロー))
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『ETIC.には、なぜ起業家と、元気な若者が集まっているのか?(中)』
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■インターンだから、出来ることがある
オウケイウェイヴほか複数のベンチャー企業に、ETIC.からのインターンを引き受けた
株式会社コンコードエグゼクティブグループの杉浦元氏は、インターンの可能性についてこう語る。
杉浦元さん(株式会社コンコードエグゼクティブグループ 取締役COO)
「中小企業やベンチャー企業にとって、インターンは
組織の新陳代謝を促してくれる存在なんです。
なぜならベンチャーや中小企業は、人を新たに採用する
余裕がほとんどない。すると結果的に、組織が滞留、
固定化してしまうのです。
インターンという、お金がインセンティブで動いていない
若者が、朝早くからやってきて、夜遅くまで、
素直に頑張っている。時には社員よりも営業成績が
よかったりすると、社員にとってはものすごく刺激に
なります。
一方、給料で動いているわけでないので、
アルバイトを採用するよりもずっと手間がかかります。
なぜなら、仕事で成長や満足感を得られないと、
飽きてしまうからです。
インターン生をどう成長させるか、に気を配ることが、結果として、社内のマネジメント能力や人事戦略の強化につながるんですね。」
株式会社ガイアックスの上田祐司さん(代表執行役社長CEO)は、新しいインターンが入ってくることに積極的だ。
上田祐司さん(株式会社ガイアックス 代表執行役社長CEO)
「インターンを受け入れることは、事業としても
有効だと思っています。特に我々のサービスは、
経験が必要とされる業種ではないので、むしろ
前例や固定観念にとらわれない新しい発想ができる
若い学生の方がよかったりします。うちの会社では
インターンから社員になった人も多いです。」
ガイアックスのように、社内のメンバー全体に
起業家精神が宿っている場合、やる気のあるインターンが
入ることは、会社のビジョン実現を
さらに加速させる原動力になるのだろう。
一方、特に、創業より時間が経った中小企業で、
新たな事業を起こす場合に、時に経営者一人で、
会社全体にアントレプレナーシップを浸透させる
のは難しい。インターン生という“よそ者”が会社に入ってくるのをきっかけに、社内に化学反応が起こり、
内部のリソースが活性化されるようだ。
高嶋民仁さん(株式会社ウィンローダー代表取締役)は、社長就任当時の奮闘を振り返って、
インターンでしか会社の変化は起こせなかったと言う。
高嶋民仁さん(株式会社ウィンローダー 代表取締役社長)
「自分の分身のように、一緒に会社の中で
奮闘してくれた彼らは、インターンだからこそ、
真剣に向き合って、時に社員とも衝突できたと思う
んです。一生勤めない、期間限定だからこそ、
後腐れなく衝突できる。もし今後30年働く
会社だったら、うまくやろう、と組織の力学が働く。
だから正社員やアルバイトでは出来なかったと思います。
インターン生たちが、会社の事業や社内を新鮮な目で
見て、驚いたりすることが、社員の刺激にもなって、
だんだん、だんだん社員も巻き込まれて、
新しいものを起こしていく空気になっていきましたね。」
■若者の成長を支えてきた、ETIC.のコーディネーション
—新しい事業を作り出すために、必要な志と覚悟を問い続ける実践の場
高嶋氏は、インターンという言葉には現在、いろんな意味があると指摘する。
「ETIC.の言う“インターン”と、採用を目的とした、インターンは、定義が違っていると思いますね。」
では、ETIC.のいうインターンとは、何か。上田氏、高嶋氏、杉浦氏を含め、ETIC.からインターンを受け入れる企業は、「ETIC.からの学生は質が高い」口を揃える。
「ETIC.以外のところからとった学生は、学力レベルは高くても質が低いことが多くあります。
ETIC.から来た学生は、その点質が高い。ETIC.が最初に、心構えを学生に打ち込んできてくれる。それがあるかどうかでものすごく差が出るんですね。(杉浦氏)」
「ETIC.から来る学生は、皆、劇的に熱い気持ちを持って、入ってくれるんですよ。
ETIC.では最初に学生に、本気になるように脅しをするじゃないですか(笑)、あれが有り難くてね。(高嶋氏)」
山内幸治(ETIC.統括ディレクター)はETIC.の役割について次のように話す。
「学生がリーダーが育つためには、研修でなく、機会が必要なんです。加速度的成長が求められる機会。
例えば、突然上司がいなくなったり、子会社の社長になるといった出来事が人を本気にさせ、
成長させます。ただ、学生ですから、戦力として働いてほしいと思うベンチャーと、経験のない学生の間には、必ずギャップがあります。そのギャップを埋めていくのが、ETIC.のコーディネーターの役割なんです。」
受け入れ企業が、ETIC.からの学生に期待を多く寄せるのは、
ETIC.がインターンシップ期間が始まる前、若者たちの中に、「何もない状況下でも自分で前に進もうとする」起業家のマインドセットを、叩き込んでいるのを知っているからだろう。
インターンシップ期間中も、メンタリングを積み重ね、必ず学生に訪れる挫折感、無力感を、
自力で跳ね返す気力と本気度を呼び起こす。これまで見てきたようなインターンシップの現場は、
言わずもがな学生にとって大きな学びの場でもある。半年(〜1年)の間、ベンチャー企業の中で、
経営者のすぐ近くで働き、起業家、経営者の志や思いを共有し、事業が成長する過程を伴走する
ことで、経営者の目線で会社のことを考えざるをえない環境に身をおくことができる。
しかし、目線は高くなっても、経験がないために自分のできること、能力のなさに苛まれて
苦しんだり、時に無気力な時期も経験する。ベンチャー企業の経営者の側から、その悩みを
聞いている暇はなかなかない。
ここで、ETIC.が学生に対して行うのは、状況を変えるための具体的な方法論を伝授することではない。
状況は自ら変えようとしなければ変わらない、ということを気づかせるように、
粘り強く働きかける、学生への意識付けだ。
苦しい時期を自分から経営者や社員に働きかけて乗り越える。
「自分から動くことで、周りが変わるんだ」そんな体験をし、少しずつ成果と呼べるものが増えて、成功体験が生まれるごとに、自信をつけて、たくましく成長していく。
これが、何もない所に自ら事を起こしていく、起業家精神へとつながっていく。
このような地道な繰り返しが、少しずつ形となり、成功体験を得た学生の顔つきが変わっていく。
その姿に触発されて、起業家もまた、作り上げたい社会の姿への気持ちを、
自分に純粋に問いかけられるのかもしれない。
「ETIC.のインターン生が入ったおかげで、会社の中が変わり、
そして新たに優秀な社員が採用できるようになったから、一時期ETIC.のインターンをやめたことがあったんですね。
しばらくして、いろんな社内の仕組みが整ってきたときに、
ふと、『あれ、インターンと一緒に頑張っていた時の、あの頃の熱さが自分自身に足りない!』と
反省して、またインターンを受け入れることにしたことがありましたね。(高嶋氏)」
■インターンを経て、起業家へー活躍する卒業生たち。
1997年の開始から、14年間でインターン参加学生数は2400名、参加企業数は、800社となり、
インターン卒業生の中から少なくとも150人が起業している。起業する以外にも、ベンチャー企業の幹部や、企業での執行役員など、ETIC.のインターン経験者が、全国のあらゆる分野で、様々な形で起業家精神を発揮し、活躍している。
(EIPの卒業生インタビューは、こちら)
彼らの中には、現在受け入れ企業として、新たな学生インターンを受け入れている団体も複数あり、
インターンシップを通じた、若者の挑戦の連鎖が始まっている。
この連鎖が、ETIC.にいつも、エネルギーにあふれた起業家と、若者が集う理由があるのではないか。
こうしたエネルギーを生み出しているインターンシップの仕組みが、現在、20地域以上に広がっている。
これは、また改めてレポートしたい。
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